こんにちは、田中です。
今日は、どうすればジュニアアスリートの成長を引き出せるかというお話です。
スポーツとバイオメカニクス(生体力学)
スポーツ理論は変わる
スポーツ・トレーニングの理論は、私が子供の頃とは大きく変わりました(筆者は1980年代台生まれ)。
20世紀後半、スポーツによる国威発揚が盛んになると、スポーツ研究がすすみました。
2000年前後からは、日本の大学にもスポーツ科学系の学部が沢山できました。
アスレティックトレーナーという資格が出来たのが、ちょうどこの頃。
トレーニング理論はこの頃から大きく変わり始めたと言えます。
膨大なデータを分析できる時代に
一方で、録画技術の向上やコンピュータでの動作解析も、人間の動きの分析に一役買いました。
たとえば野球界においては、打球速度・角度の詳細な分析によって、打撃理論がそれまでと逆転しました。
バットを振り下ろしグラウンダーを打つ方がヒット率が高いというのが野球の通説でしたが、これが覆ったのです。
これは「フライボール革命」と呼ばれています。

現在では、ジュニア世代の育成にも、バイオメカニクス(生体力学)に基づいた運動指導が求められています。
生体力学にもとづいた”movement”
力学的な考え方でパフォーマンスを捉える
スポーツにおけるパフォーマンスとは何でしょうか?
それは、自分が発揮した力をいかに効率よく物体に伝えるかです。
力を加える対象は、主にはボールや器具、相手選手などです。
しかし、もっと大きなものに力を加えるとどうなるでしょうか。
地面に対して力を発揮すれば、その反作用により、跳んだり走ったりできます。
「作用ー反作用の法則」ですね。
バイオメカニクスとは、物理学であり力学なのです。
動作には効率や「質」がある
それでは、力を十分に伝達するうえで無視できないものは?
それは"Movement"(動作)です。
生体力学に適った質の高い動作は、スポーツ動作を効率的にします。
そのため、近年のアスレチックトレーニングでは「動作を鍛える」ことをスタート地点とします。
'動作'を鍛える
トレーニングルーム=筋肉増量ではない
アスリートがトレーニングルームでおもりを使って運動している。
そんな映像を見た事がありますか?
あれが、すべて筋肉量を増大させるマッチョなトレーニングであると思ったら、それは誤解です。
多くの場合、彼らは「動作を鍛える」トレーニングをしています。
(もちろん、重い選手が有利なコンタクトスポーツでは筋肉量増加のためトレーニングも行います)
ジュニア選手こそ'動作'を鍛えるべき
「動作を鍛える」ことは、ジュニア選手にとっても重要です。
ジュニア時代に鍛えられる体力要素には限りがあります。
たとえば子供は、筋力や持久力のトレーニングを大人と同じようには行えません。
しかし動作の習得能力は、就学年齢(7歳くらい)で大人の80%に達します。
つまり、動きが学習する能力は、大人も子供も大差ないのです。
そのため、スポーツへの導入年代においては、持久力や筋力よりも「動作」を磨くことが大切です。
動きの「質」と「量」
ここでいう「動作を鍛える」とは動きの「質」を高めることです。
それに対して、筋力や持久力は、動きの「量」にあたります。
動作に「質の良し悪し」がある事は、トレーナーでなくても直観的に理解できるかと思います。
まずは基礎的な動作パターンを
スポーツ動作の土台をなすのが、基礎的な動作スキルです。
これは「走る、跳ぶ、方向転換、物を投げる(蹴る)」など、競技特有ではない一般的な動きの事を言います。
こういった動作パターンは、幼児期~小学生くらいでも磨くことが出来ます。
遊びが’動き’を育てる
幼児期~小学校低学年くらいの間は、形式ばったトレーニングはほとんど出来ません。
しかし、さまざまな体育遊びを通じて動作習得は始まっています。
多種多様な動き方ができると、動作の許容範囲が広がります。
運動に対する得意意識も持てます。
「出来た」「もっとやってみたい」という自信や興味を入り口にして、スポーツへの導入ができると良いと思います。

"動き"はスポーツメディカルでも重要
まず「質の高い動作」という広い土台をつくり、そこに量的なトレーニング(持久力や筋力)を積み重ねる。
それによってパフォーマンスが高まります。
逆に言えば、狭い土台の上には高いトレーニング成果は積み上げにくく、無理をすれば故障に繋がります。
動作に余裕がある事がバッファーとなって、外傷や故障の発生確率が下がると言われています。
小学生くらいまでは複数競技に取り組む方がいい
マルチスポーツのすすめ
そのため、幼児期から小学校低学年くらいまでは、様々な動作パターンを経験することが大切です。
低学年くらいまでは、マルチスポーツ(複数の競技を経験する事)が推奨されます。
12歳で一つの競技のスペシャリストになるよりも、スポーツ万能を目指す。
その方が、その後の成長期の伸びしろが大きいと言われます。
また、同じ競技のトレーニングをひたすら繰り返すことによるバーンアウト(燃え尽き)も少ないでしょう。
色々な動作が上手にできる方がいい
さまざまな体の使い方ができると、競技に特有の動作スキルを習得するうえでも有利です。
成長期に入って特定の競技に専念した際の伸びしろが大きく、そのスポーツのスキルを精度高く実行できます。

たとえば、サッカー選手でも、上半身の使い方は上手でないといけません。
強いキックの際には、上・下半身を連動させて体が回転するのを抑制し、動作をコントロールします。
ルーズボールを取り合う際には上半身の支持・安定性が求められます。
これら上半身の使い方を磨きたいなら、鉄棒や雲梯(うんてい)逆立ちなどが良いでしょう。
別の競技の中でいえば、水泳やボール投げに取り組むのも良いと思います。
この話の続きはまた次回
ここまで話の一般化のために、動作やスキルという言葉の意味をあいまいにして話してきました。
そのため、動作・スキルという言葉に誤解が生じているかもしれません。
スポーツにおいて動作はスキルであり、性質上2つに分けられます。
基礎的動作スキルと、競技特異的な動作スキルです。
詳しい説明をすると長くなりそうなので、それはまた次回に譲ります!
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コーチ・トレーナー・メディカルの職種の垣根を越えて、活発な意見交換ができると良いと思います。
専門家でなくても、スポーツキッズを持つ親御さんにもシェアして頂けると幸いです!