こんにちは、田中です。
子供をコーチングするためには、人間の発育・発達について知っている事が大事です。
スポーツ指導者の方だけでなく、私たちメディカルスタッフにも必要な知識です。
今回から5回にわたって【子供の発育・発達とスポーツ】というお話をしていきます。
その中で今日のテーマは…
- スポーツにおける基本的な年齢区分
- どの年代にどんなトレーニングが合っているかという基本的な話。
- 個々に違う発育段階や競技歴をどう考慮するかという話です。

ジュニアスポーツにおける年代区分
年代区分で考える
年齢は、おおまかに次のような区分で考えられています。
シリーズ5回をとおして、この区分けで話を進めます。
どのターム(期間)が何歳くらいを指すのか、何となく把握してください。
幼児期:4~6歳
児童期:7~9歳
成長期(前期):10~12歳
成長期(中期):13~15歳
成長期(後期):16~18歳
個人差や性差を理解する=生物学的年齢
同じ年齢でも成長には性差や個人差があります。
たとえば性別については、男子より女子の方が身長の伸びが早いです。
女子の10~12歳は成長期に当たると思います。
しかし、現代日本人の10歳男子に成長期の特徴があるかと言うと…
そういう子は少ないと私は思います。
後述しますが、ここで生物学的年齢という考え方が重要になります。
ゴールデンエイジ理論という区分もある
近年流行しているものに、ゴールデンエイジ理論があります。
9~12歳を、発達の黄金期として年齢区分の中心に据える区分けです。
たしかに、この年代はスキルの習得や運動能力向上に有利です。
ただ今回は、これに則って話を進めるのはやめておきます。
成長期前期の回で触れていきます。
発育・発達における一般的な考え方
年代ごとにどんな練習やトレーニングをするべきか。
これを語るうえで、外せない考え方が2つあります。
- スキャモンの成長曲線
- 発育・発達パターンと年齢別運動強化方針
スキャモンの曲線は、20歳の成人の身体機能を100%とした時に、それぞれの年代で何%くらいの機能を有しているかを表しています。
「神経型」というのは、上手な体の使い方を身につける、いわば動作学習能力です。
いっぽう「一般型」は、スポーツ理論でいうならば筋力や持久力です。
筋力や持久力よりも先に、動作学習能力が高まることが分かります。
年齢別運動強化方針から分かること
また、年齢別運動方針でいう「粘り強さ」は持久力、「力強さ」は筋力と言い換えられます。
ここからも、持久力や筋力に先立って「動作」を習得すべきことが分かります。
幼児~小学校低学年くらいまでは、体の使い方を磨くのが良いと言えます。
その後に、持久力や筋力などの要素を向上するトレーニングをすると良いでしょう。
年代ごとの特徴を知ることも大事
ここに、身長の要素が関わってくるのもポイントです。
身長増加のスパートが始まると、特有のケガ・障害が発生するためです。
また体が変わっていくにつれて、各年代で生理学的な特徴・力学的な特徴がみられます。
子供には、成人と比べて苦手な要素があったりします。
また、同じ運動でも、ある年代にとっては凄くリスクが高いものになってしまう事があります。
子供は大人のミニチュア版ではなく、別の運動原理が働いていると思って接することが、とてもとても大切です。
このあたりの話は次回以降、年代別にやっていきます。
この二つの曲線を何となくでも覚えておいてください。
生物学的年齢
ただ、一般的な発育機序を知っているだけでは、適切なトレーニングメニューを組めません。
同じ学年の選手といっても、みな同じ体格ではないからです。
その子が何歳に相当する体格か
同じ12歳の選手でも、体格的には10歳に相当する子がいます。
その一方、14歳に相当する体格の選手もいるでしょう。
12歳の選手を指導しているコーチは、実際には10歳から14歳の選手を指導しているのと同じです。
ここで実年齢(生まれてからの年数)とは別に、生物学的年齢(体格的に見て何歳に相当するか)という概念が必要になります。
チーム運営とケガのマネジメントで重要になる
骨格的に10歳の子が、14歳の体格の子と同じプレーをする場合、体にかかる負荷は相当大きくなる事は想像できますね?
その分、ケガや故障に見舞われるリスクも高くなります。
コーチ・トレーナー・メディカルには、生物学的年齢という架空の年齢を設定・想像する思考が必要になります。
とはいえ実際のチーム練習で、個別にメニューや運動量を変えることは難しいですよね。
ジュニア世代のチームは、数少ない指導者の多大な努力によってチーム運営されています。
なのでせめて、指導者・保護者の皆様には、この生物学的年齢を考慮して選手の体調を観察して欲しいのです。
競技者としての年齢
競技年齢という概念を持とう
もうひとつ、一人ひとり個別性を考慮してコーチングするうえで欠かせない事があります。
その選手が、これまで何年その競技をやっているかです。
競技を始めて1年目の子は、既に5年やっている子と比べて、できる動作スキルが少ないです。
動作スキルの許容範囲の狭さは、ケガや障害を起こしやすい要因になります。
始めたばかりの頃は、たくさんの練習は出来ないということです。

分かりやすい例えをしてみましょう。
あなたはウェイトリフティングの国内チャンピオンです。
これまで様々なトレーニングを積んできたので、ウェイトリフティングのトレーニングなら何でもこなせます。
しかし、今年からマラソン競技に転向したらどうでしょうか?
競技者としては1年生です。故障せずに実施できるトレーニングは内容・量ともに限られているのではないでしょうか?
スポーツ導入期や競技変更時にケガが増える
この問題が起こりやすいのは、スポーツへの導入期(10~13歳くらい)と進学のタイミングです。
競技開始年齢が遅い子が、いきなり先行組と同じ練習は出来ないので注意しましょう。
成長期手前くらいならスキルはちゃんと追いつきますので、段階的にトレーニングしましょう。
また、高校に入って、中学までやっていたのと違うスポーツを始めると故障が多くなります。
その競技を小学校からやっている子と同じ練習をすれば、スキル不足によって負荷が大きくなるからです。

動作スキルが近い(引き継げる)競技には転向しやすい
この点において、もう一つ。
動作スキルが似ている種目に移行する場合は、過去の競技歴が活きる事も想像できるでしょう。
前述のウェイトリフターが転向するのがマラソンではなく、砲丸投げだったら?
瞬間的に力を伝達するという点では、ウエイトリフティングの時の体の使い方が活かしやすいのではないでしょうか?
この人は、おそらく投擲の練習に対する許容範囲は比較的高いと思います。
このようにコーチングにおいては、その競技の競技歴だけでなく、過去の運動歴も把握しておくことが重要です。
生物学的年齢 と 競技年数
ここまでお話しした生物学的年齢と競技年数、双方を加味しながら選手に関わることが大事です。
とくに注意が必要なのは、
- 競技開始年齢がはやく、競技歴が長いため献身的な運動量を要求されるが、周囲より体格の発育がゆっくりな選手。
- 発育が早く、体格に恵まれているためタフなプレーを求められるが、競技後発組でスキルが周囲に追い付かない選手
ジュニアアスリートが故障せずに練習をするには、十分な注意が必要です。
また、トレーニングにおいて注意すべきことは年代ごとに違います。
年代ごとに、やった方が良い事・避けた方が良い事が変わります。
これについての具体的なお話しは、専門的になるので次回に譲ります。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
コーチ・トレーナー・スポーツメディカルの皆様と知識・知見の交換ができると嬉しいです。
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